My Chronic Delusion

音楽や吹奏楽、そして下ネタや二次創作が多めですね。

【ヒビキノ】叶わぬ恋を求める罪とその罰

【轟×小沼←石橋】
報われない話


教えて欲しい。誰もが気持ちの面で不利益しか得られない、醜い感情を抑える方法を。
どうして人の想いは対にならないのだろうか。好意を寄せた相手に必ずしも好意を寄せられるとは限らない。理論ではどうにもならない、恋慕という感情。それは遺伝子に組み込まれている呪いらしくて、生物学的になんの利益もない同性愛にも適応され、結局何もできないオレは小沼と轟をただ遠目に見るしかない。

中等部でギターをやっていた小沼が高等部では吹奏楽をやり始めて、二年の時に何故かベース入門書とか読んでいて、それで声をかけたら、何故かオレまで吹奏楽部の一員になっていた。気づいたら重たいコンバスを毎日抱えて移動していた。でも、それはそれで満足だった。だって、小沼がいたから。オレは小沼が好きだったから。
なのに、少し前に小沼に胸の内を打ち明けられ、相談されてから、ずっと気持ちが沈んでいる。

「石橋先輩、このお金でコンバスケースでも買ってください。移動、楽になるでしょ」

ある日、轟にほいっと渡された封筒。どうやら小沼がアルバイトして貯めたお金らしい。二人の間に何があってバイトしてたかなんてよく知らないけど、二人の共有する事象に腹が立った。

「何でオレにくれるん?」
「小沼先輩が好きにしていいって言ったからです」
「小沼のチューバケース買ったらいいじゃない」
「それじゃあ二度と小沼先輩がオレに運ばせてくれないじゃないですか」
「ふぅん、コンバスは運ぶ気ないん」
「弦は管轄外ですから」

ふっと笑う轟はどこまでも黒くて。思わずこちらも苦笑してしまう。オレは轟の手からお金の入ってるらしい封筒をひったくった。

「邪魔者は入るなって事だね」
「本当にそうですよ。小沼先輩はオレのモノですから、石橋先輩は今日から二週間、木低の方々と練習しててください」
「あっそ。二人で仲良くね」

勿論ですと、轟は向きをかえて去っていった。最後まで悪寒のする笑みを崩さずに。
何で、あんな後輩を小沼は選んだのだろう。轟のああいう一面を小沼に見せても、彼はあいつを愛するのだろうか。

「少し相談があって」と、顔を赤らめながらオレの腕を引く小沼を思い出す。告白されたなんて持ちかけてきた小沼にオレは何と返したのだっけ。オレも小沼が好きだから、小沼が幸せになればいいと答えてしまったあの時の自分を殴りたい。
告白が轟からのものだと気づいたなら、オレはどうしたのだろうか。

この世は随分と理不尽だ。例えば、菅井に想いを寄せる矢乙女を、自覚はしていないものの恐らく好きだろう香田くん。それを慕うのはオーボエの後輩千丸君で、更に彼に惚れたのはボーンの綾乃君。そして遠藤君と、ずっと繋がっていく。誰か自分「の」好きな人を諦めて、自分「を」好きな人を選ぶと世の中解決じゃないか。そもそも男同士の恋愛なんて、叶わないものばかりじゃないか。

……ああ、酷い。僕が小沼を諦められると思ってるの?理屈じゃねじ伏せられない感情を、諦められると?

轟はオレをライバル視さえもしない。徹底的に除外する。せめて、勝負くらいさせてよ。
やっぱこれって、何かの罰なんかな。オレ、何か悪いことしたっけ。あぁ、人間的にアウトだな今。男を、小沼を好きになっちゃったんだもの。
じゃあ、神様。轟にも罰を与えてよ。轟だけじゃない。叶わぬ恋をしている皆に、罰を与えてよ。